羊乳から作られる、ペコリーノチーズ。2000年以上昔すでにローマ軍兵士の携行用食糧にもなっていた歴史ある偉大なチーズです。チーズ作りの歴史においては牛乳よりも古くから利用されています。羊乳は牛乳と比べるとかなり濃いです。タンパク質と脂肪の分子が大きく、固形分が多いため、飲用として扱われることは殆どありません。
ペコリーノチーズというとトスカーナ地方原産の「ペコリーノ・トスカーノ」とラツィオ州やサルデーニャ州原産の「ペコリーノ・ロマーノ」の2種類があげられます。 現在ペコリーノ・ロマーノの97%はサルデーニャ島で作られていて、ローマ近郊ではほとんど作られていないそうです。
今回は伝統製法でペコリーノ・トスカーノを作る羊飼いを訪ねました。
羊の品種は、肉用種と乳用種をかけあわせているそうです。サルデーニャ島の羊、ローマの羊、シチリアの羊、アペニン山脈の羊が主要品種とのこと。
農家で自家生産する飼料を与えています。
早速チーズ作りを見せて頂きました。
今回は、40頭分(約30リットルほど)の羊乳を使うそうです。
一般的な工場製法の場合は、最初に加熱殺菌するので乳酸菌が死滅します。
発酵させるためには人工的に乳酸菌を添加しないといけません。
今回の伝統製法は生乳を使用するので、生きた乳酸菌を利用して発酵させます。
レンネットとは、仔牛や仔羊の第四胃の酵素です。豆腐でいうところのにがりですね。
レンネットを使ったチーズの製法は、偶然発見されたそうです。
【レンネット誕生秘話】
その昔、アラビアのとある旅の商人が砂漠で仔羊の胃袋で作った水筒にヤギのミルクをいれて持ち歩いたそうです。1日のたびを終えて、ミルクを飲もうと水筒をあけたところ、中のミルクが固まり、柔らかなチーズができていました。これは、仔羊の胃からしみだした凝固作用のある酵素がヤギのミルクを固めたためです。この酵素こそがレンネットであり、これをきっかけとしてレンネットを使ったチーズの製法が生まれたといわれています。
伝統的なレンネットの作り方を聞きました。
まず仔羊にミルクを飲ませます。30分経つと、ミルクが第四胃まで到達しますので、そのミルクを消化する前に仔羊を屠畜し、胃袋を取り出します。
そのまま乾かすとそのミルクはチーズみたいに固まります。これがレンネットです。
レンネットはキモシンという酵素が主成分ですが仔羊の成長と共に少なくなります。生後三か月未満の仔羊から摘出されるレンネットは、成分のほとんどが純粋なキモシンのため良質なチーズ作りに最適とのこと。
これをザルにあけ、ざっとホエーをきれば、ラヴィジョーロ・ディ・ペコラです。 ラヴィジョーロチーズはフレッシュさが命ですので、製造後48時間以内に食べきるそうです。(現在は真空、冷蔵技術の発達により日本にも輸入可能)
今回はペコリーノ・トスカーノを作るので、カードを粉々になるまで混ぜます。このときの混ぜ具合でチーズの固さが決まります。ちなみに羊飼いが愛用している木の枝はジュニパーの枝です。ジュニパーは昔からバターナイフや、チーズの入れ物に利用されてきた。その実からはアロマオイルが作られ、ジュニパーベリーで香りづけしたお酒がイギリスのリキュール、ジンです。
ペコリーノチーズは産地によって塩分量が異なります。
ロマーノがとても塩気が強い反面、トスカーノはロマーノより塩気が薄くとてもマイルドでそのままでも食べることができるそうです。
絞り出したホエーで、リコッタチーズを作ります。
リコッタチーズのリコッタとは「二度煮る」という意味からきています。
しかし、ただ煮ればできるという簡単なものではありません。火を止めるタイミングが重要とのこと。加熱すればするほど、たくさんの量のチーズがとれます。しかし74℃を超えると微かに焦げ臭が出てしまいます。
74℃で火を止めるとミルキーな風味に仕上がるそうです。
次回、出来立てのチーズと絶品仔羊料理を頂きます。